蜜色トライアングル【完】
「おれのより数倍手間かかってると思うよ、それ」
「……だよね……」
「わざわざ言わないところが由弦らしいね。……さて、先に始めようか?」
圭斗はビールのグラスを持ち上げ、木葉のグラスに近づけた。
木葉もグラスを持ち上げ、少し傾ける。
カツンと小気味よい音がグラスの間に響いた。
互いに一口飲んだ後、お通しに箸を伸ばす。
「凛花ちゃん、まだ来ないのかなー。つけまつげってそんなにかかるのかな」
「いまに来るさ。ところで……」
小鉢に箸を伸ばしながら、圭斗が口を開く。
いつも聴診器を持っている手が器用に箸を操っている。
圭斗の箸さばきはいつもキレイで、木葉はつい見入ってしまう。
こういうところに育ちの良さが出るのかもしれない。
「武内礼司っているじゃん、俳優の」
「うん」
「武内礼司が所属する芸能事務所から、桐沢道場にお声がかかったって、本当?」
「あー……それね」