蜜色トライアングル【完】



木葉は錯乱し、椅子を蹴るように立ち上がった。

その拍子にコーヒーカップが倒れ、パシャッと雑誌にかかる。

近くを歩いていた店員が驚いて振り返った。


「お客様!?」

「……ぁ……」

「お召し物は大丈夫ですか? 今、お拭きしますね!」


店員が慌てた様子でテーブルの傍に来、おしぼりでコーヒーを拭きはじめる。

木葉ははっと我に返り、コーヒーで汚れた雑誌を見た。


気のせいではない。やはり似ている。


木葉は料金を払い、ふらふらとした足取りで店を出た。

あの井戸……。

そして、この写真……。


――――自分は何か、大事なことを忘れているのかもしれない。


思い出したくない、けれど、大事なことを……。


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