蜜色トライアングル【完】
「武内礼司って、前にも時代劇出てたよな? なんで今更、殺陣の練習なんだ?」
「今回の映画は『さすらいの落ち武者、一刀斬撃で悪人どもを闇に葬る』て設定なの」
「……落ち武者?」
「これまでは悪代官とか越後屋の若旦那とか、インテリな役が多かったけど、今回は剣客の役だからね~」
――――さすらいの落ち武者に、悪代官。
目指す方向性がよくわからない俳優だが、凛花の目にはこれ以上ない輝きをもって映るのだろう。
熱意を込めて語る凛花を木葉は目を細めて眺めていた。
その脇から、すっと料理が乗った皿が差し出される。
はっと見上げた木葉の目に由弦の姿が映った。
「これ、卵焼き。オーナーからサービスだってさ」
「わ、おいしそ~。ありがと!」
「あと刺身。今日は帆立とマグロとイワシ。イワシは今が旬で、これは愛知沖で取れたものを……」
由弦は口調は淀みない口調で淡々と説明する。
由弦はここでバイトを始めて二年だが、すでに貫禄のようなものが身についている。
家ではジャージにシャツという格好でソファに寝転んでいるが、こうして作務衣を着てきびきび動いているのを見ると、女性に人気があるのもわかる気がする。
――――姉の欲目かもしれないが。