蜜色トライアングル【完】
4.夜闇の格闘
8時。
木葉は角倉兄妹と別れ、花壱の裏口に立っていた。
数分後。
ガタンと戸の開く音がし、私服に着替えた由弦がドアから出てくる。
黒いシャツに洗いざらしのジーンズというラフな格好だが、落ち着いた色味が由弦の白皙の顔を更に際立たせている。
「お待たせ、木葉」
「お疲れさん」
由弦は木葉の横に並ぶと、大きく伸びをして疲れたように肩を回した。
弟の姿に木葉はくすりと笑った。
木葉の頭は由弦の肩の位置にあり、見上げなければ表情が見えない。
「今日の蛸わさび、おいしかったよ。ありがと」
「あー……。辛くなかったか?」
「ちょうど良かったよ。今度、家でも作ってみようかな」
木葉は言いながらゆっくりと歩き出した。
木葉達の母親は兄弟が小さい頃に亡くなり、今は木葉が主に家事を担当している。
といっても由弦が大学に入ってからは、平日の食事は各々取るスタイルになっているが……。