蜜色トライアングル【完】
「なぁ、木葉」
由弦に呼ばれ、木葉は傍らを歩く由弦を見上げた。
由弦は前を向いたまま、低い声で続ける。
「木葉はさ、いつまであのヤブ医者の所に勤めんの?」
「いつまでって……今のところやめる予定ないけど」
「ふーん……」
由弦はふいに立ち止まり、木葉に向き直った。
木葉と目線を合わそうとするが、その視線はどこかぎこちない。
木葉は首を傾げた。
「今日さ。あいつと一緒に来たじゃん?」
「うん」
「あいつとどうなってんの、木葉? 次期院長夫人の座でも狙ってるわけ?」
思いもよらない言葉に木葉は目を丸くした。
――――圭斗は従兄だ。
それ以上でもそれ以下でもない。
冗談かと思い笑おうとしたが、由弦の思いのほか真剣な視線に口を噤んだ。