蜜色トライアングル【完】
「……ってぇ……」
「とにかく、静かにしてもらえたら、オレはそれでいいんだけど?」
飄々と言う由弦を、男が刺し殺しそうな目線で見上げる。
男はゆっくりと立ち上がり、由弦に向き直った。
「てめぇ……許さねぇ……」
言い、胸のポケットから光る何かを取り出す。
ジャッという音とともに銀の刃が出る。
どうやらカッターのようだ。
「なんでそんなもん入れてんだよ……」
由弦はそれを見、ぼやくように言った。
その目に動じた様子はなく、むしろ呆れ顔だ。
男がカッターを振りかざし、由弦に向かって勢いよく振り下ろす。
由弦はひらりと余裕な表情でそれをかわし、脇にいた女が手にしていた鞄から入っていた折り畳み傘をすっと抜き取った。
その動作は素早く、流れるようだ。
「ちょっと借りるよ。棒には棒を、ってね」
言いながら由弦は腰を落とし、傘を胸の前で構える。
無駄のない動きで相手の隙を逃さない――――桐沢流短杖術の構えだ。