蜜色トライアングル【完】
木葉は由弦の姿を凝視していた。
普段着なのに、まるで由弦が道着を着ているような錯覚に陥る。
一度でも剣術を習った者であれば、この空気だけで相手の力量がわかるだろう。
しかし残念ながら、男は剣術のケの字も知らない一般人だった。
「たぁぁぁ!!」
男が再びカッターを振りかざして突進してくる。
由弦はそれを横に交わしざま、カッターを持つ男の手を傘で強かに打ち据えた。
バシッという小気味よい音とともに、カッターがひゅんと宙を飛ぶ。
「おっと!」
由弦は地面に落ちたカッターの刃を、素早く踏んだ。
呆然とする男に、にやりと笑う。
「獲物はこれだけ?」
「……」
「静かに話す気になった?」
男は顔面蒼白のままじりじりと後ずさった。
まるで悪夢の中にいるかのように落ち着きなく視線を彷徨わせる。