蜜色トライアングル【完】
由弦は短杖術で人を傷つけるようなことはしない。
短杖術を使うのは、人を守るため――――そして相手を怪我させないようにするためだ。
しかし男はそんなことを知るよしもない。
木葉は息を飲んで目の前の光景を見守っていた。
が、ふいに男と目が合い、びくっと背を強張らせる。
「……」
男はいい獲物を見つけたと言わんばかりに木葉の方に足を向けた。
木葉はとっさに鞄を置き、身構えた。
護身術の構えだ。
これだけ距離があり、あれほど隙だらけならば、大丈夫だろう、多分。
と思った、その瞬間。
男の後ろで由弦がさっと動いた。
その動きは俊敏で、いつのまにか男の首元に傘が押しつけられている。
「……あっちは方向違いだよ?」
由弦は男の首元を傘でギリギリと締め上げる。
先ほどまでの余裕のある雰囲気は消えうせ、由弦の全身に殺気が漲っている。
その目は氷の刃物のように鋭く、容赦ない。