蜜色トライアングル【完】
木葉は思わず息を飲んだ。
人を殺せそうな目……とはこういう目をいうのだろう。
「はっ、離せ……!」
「……離してもいいけどね。離したらどうするつもり?」
「……」
「答えなよ」
由弦は言いながら力を強める。
由弦の口元にはうっすらと酷薄な笑みが刻まれている。
なまじ顔が良い分、その迫力は桁違いだ。
由弦は短杖術で人を害すことはない。
――――が、木葉が関わるときだけは別だ。
甘さも遠慮も、容赦もない。
やがて男の体からくたっと力が抜けた。
ずるんという情けない音と共に男が地面に転がる。
「……失神したか。他愛ないな」
由弦は傘を女の鞄に突っ込み、転がっていたカッターを取り上げて刃をしまった。
木葉は女に視線を移した。
20歳ぐらいだろうか、長い茶髪に小動物を思わせるくりくりっとした目が可愛らしい。
花柄のワンピースの下にはジーンズのスパッツを身に着けており、背も木葉より高い。
見た感じ、由弦と同じくらいの年に見える。