蜜色トライアングル【完】
女の前で由弦はぱんぱんと服を叩き、低い声で言った。
「あまり強く締めてないから、10分もすれば起きると思う。あとは救急車呼ぶなり、警察に突き出すなり、好きにしたら」
言い、女に背を向けて木葉の方へと歩き出す。
しかし。
その腕を、女が後ろからがしっと掴んだ。
「待ってっ!」
女は必死の表情で由弦を見上げる。
その目には、困惑と、恐怖と……そして由弦に対する憧れの感情があった。
女の勘だろうか、傍から見ていた木葉は彼女が由弦に『一目惚れ』したとはっきりわかった。
「あ……あのっ。桐沢くん……だよね?」
「……なんでオレの名前知ってんの?」
「私、一之瀬遥。桐沢くんと同じ、南城工科大学の四年生」
言いながら女は頬を染める。
どうやら女、一之瀬遥の方は由弦を知っていたらしい。
しかし由弦は、誰?とでも言いたげな目で彼女を見下ろしている。