蜜色トライアングル【完】
「困ってる同級生を放っておいちゃダメでしょ。私は一人で帰るから、送ってあげなさい。わかったわね?」
「おい、木葉……っ」
「じゃあね、一之瀬さん? おやすみなさい」
木葉はくるりと踵を返し、家の方へと歩き出した。
後ろで由弦が何か言っている声が聞こえたが、聞こえないふりをしてスタスタ歩いていく。
由弦が自分を大事に思ってくれていることはわかっている。
けれどその気遣いは本来、彼女や未来のお嫁さんに向けられるべきものだ。
自分だけが独占するわけにはいかない――――。
由弦も自分も、そろそろお互いに離れるべきなのだ……。
木葉は歩きながら、先ほどの由弦と一之瀬遥の姿を思い出していた。
由弦の隣に立っても釣り合う、かわいい雰囲気の彼女。
並び立つ二人はまさに『お似合い』だった。
そう、由弦の隣には彼女のような可愛い子が立つべきなのだ……。
……と理性では思っても、感情はなかなか素直ではない。
弟と距離を取らねばと思う反面、寂しさが胸にこみ上げる。
木葉は胸に湧き上がる寂寥感を押し殺し、家へと向かった。