蜜色トライアングル【完】
二章
1.兄のカリスマ
週末の土曜。
木葉は朝食の後、道着姿で道場の周りを掃除していた。
箒で枯葉を集め、ごみ袋にまとめていく。
掃き掃除は木葉の週末の日課だ。
春を迎え、庭の木々も次第に芽吹いてきている。
あと一か月もすれば庭は濃い緑で覆われるだろう。
道場の周りは砂利を敷いてあるが、庭の植え込みは土のままで雑草がぴょんぴょん生えてきている。
そろそろ雑草取りをしなければ……と庭を眺めていた木葉の目に、由弦の姿が映った。
由弦は濃紺の道着を身に着け、道場の方へと歩いていく。
土曜の午前は由弦と父が剣術と短杖術の指導を行うことになっており、午後からは木葉と兄が剣術と護身術の指導を行うことになっている。
あれから、由弦とは話していない。
家の中で話しかけようとしても、由弦は『話しかけるな』オーラを前面に出してすぐに離れてしまう。
スネているときの態度は相変わらず昔のままだ。
数日経てば元に戻るだろうと楽観的に考え、木葉は箒とごみ袋に視線を戻した。
その時。
「ん……?」
背後にぞわっとする視線を感じ、木葉はゆっくりと振り返った。
そこに立っていたのは、数日前のあの患者だった。
粘着質な視線は相変わらずで、見ているだけで吐き気が胸にこみ上げる。