蜜色トライアングル【完】
冬青は佐山の背後に回り、肩甲骨や骨盤に確かめるように触れる。
佐山は神にでも触れられたかのようにぴしりと固まり、微動だにしない。
冬青はひとしきり佐山の体に触れた後、正面から向き直った。
「このままでは、あと十年もしないうちに三途の川に飛び込むことになるぞ?」
「……」
「あんたの祖先もあまりの親不孝ぶりに嘆き悲しむだろう」
「……」
「だがしかし、なかなか姿勢は良いようだ。剣の訓練を積めば、数か月で体が変わってくるだろう」
冬青は佐山を見つめ、淡々と続ける。
佐山は呆然と冬青の言葉を聞いていた。
恐らくこれまで、佐山に体のことについてここまでハッキリ言ってくれた人はいなかったのだろう。
医者も患者相手に『このままでは死ぬぞ』とまでは言えない。
冬青の声は鈴のように心地よく耳に入り、周りの世界を遮断してしまう。
のめり込むように見つめる佐山に、冬青は続ける。
「その体でこの先の生涯を過ごすより、健康な体で過ごした方が何倍も楽しいだろう。健康になるも、三途の川を渡るもあんたの自由だが……。どうする?」
冬青は冷静な声で告げる。
それはまるで神の宣告のようだ。