蜜色トライアングル【完】
木葉は二人の傍らで無言で成り行きを見守っていた。
木葉は昔から冬青と一緒に育ったため多少免疫があるが、初対面の人間に冬青の存在は劇薬のようなものだ。
『生来のカリスマ性』とでもいうのだろうか、冬青は物心ついた時から周囲の人間の興味と崇拝を本人の意思とは関係なく集めてきた。
今も、冬青にしてみれば普通に話しているだけだ。
もし冬青が新興宗教でも始めようものならとんでもないことになるだろう。
幸い、本人は剣術と会計にしか興味はないが……。
やがて佐山は口を開き、ぶるぶると震えながら言った。
「け、健康に…なりたい、です」
「そうか。では入門志願ということで、いいな?」
「は……はい……」
佐山が言うと冬青は目を細め、少し笑った。
怜悧な美貌にほんの少し柔らかさが加わる。
色気すら感じるその凄婉な笑顔に、佐山は凍りついた。
――――落ちたな。
傍で見ていた木葉は肩を竦め、兄を見上げた。