蜜色トライアングル【完】
「ではあの入口から入って、入門手続きを行うように。まずは基礎剣術でいいだろう。毎週土曜10時から、月謝は一か月八千円だ」
「は……はい……」
「本日手持ちがなければ、次回でいい。未収金に計上しておく」
冬青は公認会計士をしており、道場の運営を任されているためこういうところにはそれなりに細かい。
冬青は踵を返し、道場とは反対の家の方へと歩き出した。
佐山は呆然とその姿を見つめていたが、はっと我に返り慌てて声を上げた。
「あ、あ、あのっ。あなたは……?」
佐山の声に、くるりと冬青は顔だけ振り返った。
「俺は桐沢冬青。そこにいる、木葉の兄だ」
「冬青……様……」
「道場では『師兄』と呼ばれている。ちなみに『師匠』は俺の父だ。俺のことは何と呼んでも構わん」
言い、再びすたすたと家の方へと歩いていく。
佐山は呆然とその背を見つめている。
――――初対面で『様』付けって……。
苦笑いしつつ、木葉は佐山に声をかけた。
「それでは、あちらの入り口に行きましょうか? 入門手続きを致しますから」