蜜色トライアングル【完】
2.謎のフェロモン
12時。
木葉は道着の上にエプロンをつけ、昼食を作っていた。
今日の昼食は山菜そばに根菜の煮物だ。
午後からも剣術教室があるので、土曜の昼はあまり胃もたれしないものを作るようにしている。
首を伸ばすと、キッチンの窓からわずかに道場の入り口が見える。
ちょうど若い女性の集団が道場から出てくるところだった。
土曜の午前は由弦が短杖術の指導を行っている。
短杖術は短い杖を使う武術だが、短杖の代わりに傘や木片、バットなど、身近なものでも代用できるので護身術として習う人も多い。
あの女性の集団は短杖術の教室に参加していたのだろう。
由弦の指導を目当てに入門する女性も多い。
木葉は煮物を大皿に盛りつけ、ダイニングテーブルの真中に置いた。
そのまま食器棚から丼を取り、蕎麦を入れ、山菜を乗せて温めた汁をかける。
木葉は由弦の蕎麦にのみ、ぽとんと卵を落とした。
この間の蛸わさびのお礼だ。
由弦は昔から卵が好きで、麺ものや丼ものには卵を欠かさない。
いつもは由弦が自分で入れているが、今日は特別サービスだ。
丼をテーブルに並べ終わると、ちょうど父と由弦が戻ってきた。