蜜色トライアングル【完】
2.角倉兄妹
「また変な手合いに捕まったのね。変よね、私の方が美人なのに~。あんた、変なフェロモンでも出してるんじゃない?」
「出してないよそんなの。虫じゃあるまいし」
「まぁ、出してる本人は気づかないってのもあるからね~。そんなところまで似なくてもいいのにね? 全くあんたたち兄弟は……」
カラカラと面白そうに笑う凛花に、木葉は肩をすくめた。
――――『兄弟』。
兄と弟の顔を思い出し、木葉は深いため息をついた。
あの二人の顔を思い出すと木葉はため息しか出ない。
自分ではなく凛花の方があの二人と兄弟なのだと言われた方がよほど納得がいく。
「あんたんちの道場がどうとか言ってたわよね。ま、『桐沢』って珍しいからね」
「……道場に来るのかな、さっきの人」
「来るかもねぇ。でも心配ないわよ、あの二人がいるんだから」
あの二人。
凛花の言う『あの二人』とは兄と弟のことだ。
確かにあの二人がいれば心配はないのかもしれないが、木葉としては別の意味での『心配』がある。
「ま、今日が終われば明日は休みだからね。頑張りましょ? 帰りに蕎麦でも奢ったげるから」
「……花壱?」
「ええ。行きつけのトコの方がいいでしょ? 由弦もいるし、帰りも安心だわ」