蜜色トライアングル【完】
「だからか? あいつが送るって……」
「は?」
「あいつ、やっぱり……。いいか木葉、診てもらうなら角倉医院じゃない所にしろ。あいつが診察なんて、絶対にダメだ!」
由弦は身を乗り出し、凄い剣幕でまくしたてる。
……もう何が何だかよくわからない。
診てもらうなら、私より先に兄を診てもらった方が良いのではないだろうか?
と困惑していると、父が軽く咳払いをした。
「とにかく。蕎麦が伸びるぞ、先に食べなさい」
「う……うん」
まだ言い足りない様子の由弦をよそに、木葉は蕎麦の椀に向き直った。
向かいでは冬青が背筋を伸ばし蕎麦をすすっている。
その伸びた綺麗な姿勢は、道場にいるときと全く変わらない。
木葉は釈然としない思いを抱えながら、手元の蕎麦をすすり始めた。