蜜色トライアングル【完】
兄は桐沢流剣術師範、短杖術三段、その他短剣術や体術にも長けた凄腕である。
今では清二の代わりに指導することも少なくない。
由弦の腕も相当だが、兄の腕は遥かにそれを凌ぐ。
まるで剣とともに生まれてきたかのようだ。
時代が違えば、稀代の剣客か――――凄腕の殺し屋か。
冬青の周りには剣技とカリスマに魅せられた男達が集まり、熱狂的に崇拝している。
ある意味宗教のようなものだ。
「こんにちはーっ」
道場の入り口から甲高い男の声が響く。
木葉が振り返ると、白い道着を着こんだスポーツ刈りの青年が一礼して入ってきた。
「こんにちは、師姉。あの、師兄は……?」
「あっちで竹刀拭いてるよ」
木葉が指差しながら言うと、青年は目を輝かせて冬青の方へと走っていく。
彼の名は兵藤充。
6年前からこの道場に通っている、木葉の『元カレ』だ。
「師兄! お手伝いさせてください!!」
「そっちの籠は終わったやつだ。こっちを頼む」
「わかりましたっ」