蜜色トライアングル【完】
4.病院にて
――――夕刻。
剣術教室が終わった後、木葉は冬青とともに車で病院へと向かっていた。
父が運び込まれたのは桜庭病院という、この辺りでは比較的大きな総合病院だ。
「お兄ちゃん……」
「心配するな。命に別状はないと由弦は言っていた」
冬青はハンドルを握りながら冷静な声で言う。
木葉はシートベルトを握りしめ、運転する冬青の横顔を見た。
いつでも冷静な兄はこんな時でも表情を崩さない。
その冷静さは普段は冷たくも感じる事もあるが、こういう時はとても頼もしく見える。
あれから。
救急車で同行した由弦から、冬青の携帯に父の容体について連絡があった。
『命に別状はない。午後の教室の後、時間ができたら来てほしいって親父は言ってる』
教室を休むのはできるだけ避けたい、というのがが父の意向だった。
冬青と木葉は午後の教室をこなした後、私服に着替えて車に乗り込んだ。
車はシルバーのジエンタで、父が3年ほど前に自家用車として購入したものだ。
若いママ向きというコンセプトで売り出していた車だが、手頃な大きさと運転のしやすさから父はこの車を選んだ。
冬青がこの車を運転するのはなんともミスマッチだが、今はそんなことを気にしている場合ではない。