蜜色トライアングル【完】



木葉は手にしていたバッグから印鑑と保険証を出し、由弦に渡した。

由弦は保険証を見ながら必要事項を記入し、捺印する。

由弦の字は右肩上がりの癖のある斜体だが、見方によっては達筆ぽく見えなくもない。


「これでいいですか?」


由弦がカウンター越しに用紙を差し出すと、事務員の女性は顔を赤らめて受け取った。

由弦と冬青の姿に他の事務員たちも好奇の視線を向ける。

そして脇にいる木葉に、『この子は誰?』と言いだけな視線が向けられる。

木葉は内心でため息をついた。

もう毎度のことなので慣れてはいるが、もの悲しさもある。

例え兄弟と言っても、まず信じてはもらえないだろう。


書類を提出した後、三人はナースの案内で503号室に向かった。

部屋の前のプレートを見ると、どうやら4人部屋らしい。

木葉は部屋の入り口で手を消毒し、軽くノックした。


「失礼します」


部屋に入るとすぐ、入り口近くのベッドに座ったおばさんが視線を投げてきた。

見た感じ、父と同年代のようだ。

おばさんは興味深そうに木葉をじろじろと眺めていたが、木葉の後に続いて入ってきた冬青と由弦を見、度肝を抜かれたように目を丸くした。


「おんや、まぁ……」


< 59 / 222 >

この作品をシェア

pagetop