蜜色トライアングル【完】
木葉は手にしていたバッグから印鑑と保険証を出し、由弦に渡した。
由弦は保険証を見ながら必要事項を記入し、捺印する。
由弦の字は右肩上がりの癖のある斜体だが、見方によっては達筆ぽく見えなくもない。
「これでいいですか?」
由弦がカウンター越しに用紙を差し出すと、事務員の女性は顔を赤らめて受け取った。
由弦と冬青の姿に他の事務員たちも好奇の視線を向ける。
そして脇にいる木葉に、『この子は誰?』と言いだけな視線が向けられる。
木葉は内心でため息をついた。
もう毎度のことなので慣れてはいるが、もの悲しさもある。
例え兄弟と言っても、まず信じてはもらえないだろう。
書類を提出した後、三人はナースの案内で503号室に向かった。
部屋の前のプレートを見ると、どうやら4人部屋らしい。
木葉は部屋の入り口で手を消毒し、軽くノックした。
「失礼します」
部屋に入るとすぐ、入り口近くのベッドに座ったおばさんが視線を投げてきた。
見た感じ、父と同年代のようだ。
おばさんは興味深そうに木葉をじろじろと眺めていたが、木葉の後に続いて入ってきた冬青と由弦を見、度肝を抜かれたように目を丸くした。
「おんや、まぁ……」