蜜色トライアングル【完】

華やかな笑みを振りまき、凛花は診療室へと姿を消した。

まるでモデルが去った後のショー会場のような静かな空気が待合室に満ちる。

木葉も決して無口なほうではないのだが、凛花と話しているといつのまにか凛花のペースにハマり、気圧されてしまう。

でも凛花と話すのは嫌いではなく、むしろ好きなほうだ。


ちなみに『花壱』は正式名称を花壱蕎麦と言い、木葉と凛花の行きつけの呑み屋だ。

信州から仕入れた蕎麦粉を丹念に打った麺は居酒屋といえど完成度が高く、蕎麦目当てに来る常連も数多くいる。

先週も行ったのだが、深い風味とコシのある喉越しの良い蕎麦は何度行っても飽きない。


「あと二時間……。がんばるか～……」


木葉は大きく伸びをし、受付のパソコンに向かった。