蜜色トライアングル【完】
5.由弦の急接近
病院の購買コーナーに到着した木葉と由弦は、新聞や雑誌、タオルなどを購入した。
一通り買い終わったところで、袋を片手に入院棟へと戻る。
先に歩いていた由弦が父の病室の前で足を止め、扉をノックしようとした。
が、その手は宙で止まった。
「どうしたの?」
「なんか……深刻な会話してる。もうちょっとしてから入った方がいいかも」
由弦は言い、木葉を休憩コーナーへと誘った。
人の少ない時間らしく、二人の他には誰もいない。
由弦は自販機でコーヒーを二つ買うと、木葉に一つを渡した。
二人で自販機の前の椅子に座り、プルタブを開ける。
「しかし……まさか、親父がこんな事になるとはな……」
由弦はコーヒーを一口飲み、首を振った。
その顔には疲れがうっすらと見てとれる。
多分昼食の後、由弦がシャワーを浴びた直後に父が階段から落ちたのだろう。
いつもは整髪料でちゃんと整えている髪が、今は綿毛のようにふわふわと揺れている。
「なんやかんや言っても、もう60近いからな。若い頃のようにはいかねぇのかも」