蜜色トライアングル【完】
由弦は言い、大きく伸びをした。
その隣で木葉はコーヒーの缶を傾けながら、廊下の向かいの窓を見た。
……そろそろ日が暮れる時間だ。
帰ったら洗濯物を取り込んで、夕飯を作って……。
だがその中に父の姿がないのだと思うと、寂しさで心が締め付けられる。
「ま、心配すんなよ。兄貴もいるし。道場も三人で回せば、なんとかなるだろ」
楽観的に由弦は言う。
しかし木葉はその言葉に眉根を寄せた。
「……三人で回す?」
「オレも講義を途中で上がれば、夕方の教室なら……」
「何言ってんの。授業にはちゃんと出なさい。学生なんだから」
びしっと木葉が言うと、由弦はむっとした顔で木葉を見た。
「なんだよ、オレだって……」
「学生の本分は勉強でしょ? お父さんもそんなの許さないよ」
「……っ」
「午後の回は、私が病院を午前で上がって出るようにするから」
木葉は言い切り、コーヒーをぐいっと飲んだ。
その横顔に、由弦が思いきり不機嫌そうな視線を向ける。