蜜色トライアングル【完】



――――診察時間が終わった後。


木葉は診療計算のパソコンの電源を落とし、受付カウンターの上を手早く片付けた。

春物の薄手のコートを羽織り、鞄に携帯を突っ込む。

と、その時。


「これから花壱に行くんだって?」


後ろから掛けられた声に木葉は振り返った。

見ると、白衣姿の青年が戸口のところに立っている。


角倉圭斗。29歳。

院長の息子で、院内では『若先生』と呼ばれている。

木葉にとっては従兄にあたり、妹の凛花より三歳年上で、独身だ。

爽やかで端正な顔立ちに、ゆるくウェーブのかかった黒褐色の髪。

涼やかな目元に銀縁のメガネが良く似合っている。

体つきはスレンダーで背も高く、白衣を着たその姿は女性であれば視線を奪われずにはいられない。

診療は丁寧で的確、まだ若いが腕もいい。

その整った容姿と柔らかな物腰は『町医者にしておくにはもったいない』と常連のおば様方に専らの評判だ。


「けい……じゃなかった、若先生」

「木葉からそう呼ばれるとなんか落ち着かないな。普通に呼んでくれよ」

「……圭ちゃん?」

「そうそう」


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