蜜色トライアングル【完】
「ハイ、時間切れ」
言葉とともに由弦がすっと睫毛を伏せ、唇を寄せる。
木葉は目を見開いた。
その時。
後ろの廊下でガラガラっと扉が開く音がし、木葉ははっと我に返った。
反射的にコーヒーを持っていない右腕を伸ばし、由弦の肩を思いきり遠ざける。
反動で由弦は姿勢を崩し、長椅子に肘をついた。
「ってぇ……」
「もっ、もう、話終わってるんじゃないの? 先に行ってるからっ」
木葉はコーヒーをぐいっと飲み干すと、機敏な動きで立ち上がった。
缶をごみ箱に捨てて病室の方とへ歩き出す。
……今のは一体何だったんだろう。
由弦の態度も、自分の心も……よくわからない。
木葉は振り返らず、まるで逃げるように廊下の角を曲がっていった。