蜜色トライアングル【完】
<side.由弦>
木葉が去った後。
その背を呆然と眺めていた由弦ははっと我に返り、頭を抱えた。
「あー……」
――――やっちまった。
由弦はガシガシっと前髪をかいた。
まさかここで木葉にスイッチを押されると思わなかった。
よりによってこんな所で、こんな時に……。
「気付いたか……いや、気づいてねぇか?」
誰に言うでもなく、呟く。
木葉が気付いていないならいい――――が。
一度入れられたスイッチは、切るのは至難の業だ。
たった今掴んでいた木葉の肩の感触も、由弦を見上げていた黒く透明な瞳も……。
多分、忘れることはできない。
木葉が気づかなくても、最悪、忘れたとしても……なかったことには、できない。
「親父、二か月家にいないし……。まずいよな……」