蜜色トライアングル【完】
昭子は木葉をリビングに通し、足早に廊下へと出ていく。
木葉はリビングのソファに座って部屋の中を見回した。
淡い木目調で統一された西洋風の家具に、花器に活けられた色とりどりの切り花。
リビングの内装は恐らく昭子の趣味なのだろう。
角倉家の雰囲気は純和風の木葉の家と違い、とても明るく華やかだ。
その雰囲気は圭斗や凛花の持つ雰囲気とどこか通じるものがある。
木葉は昭子の顔を思い出した。
昔から木葉は昭子と話しているとどことなく畏まってしまう。
彼女が苦手というわけではないのだが、心の奥底で何か引っかかるものがあるのだ。
何なのかはよくわからないのだが……。
木葉の叔父・角倉清一は父の清二の兄で、もともと桐沢家の長男だった。
跡取りとして道場を継ぐと周りからは思われていたが、医者の道を志し、インターン時代に昭子の父・角倉圭三と知り合った。
それが縁で圭三の一人娘・昭子と結婚することになり、桐沢家の家督は二男の清二が継ぐこととなった。
今でこそ桐沢家と角倉家は普通に交流があるが、木葉の祖父母が生きていた頃はそれなりに確執もあったという。
道場を継ぐと思っていた長男が医者の家に婿入りするとなれば、祖父母としては心中平静ではいられないだろう。
圭斗が生まれてからは孫可愛さで確執はだいぶ和らいだようだが、父にその頃の話を聞こうとすると父は今でも苦い笑みを浮かべる。