蜜色トライアングル【完】
<side.圭斗>
本棚に置かれた時計がカチカチと規則正しい音を立てる。
時計の針は11:00を指している。
コンコンと控えめなノック音とともに、ガチャと圭斗の部屋のドアが開く。
「圭斗、木葉ちゃんが来たわよ」
「ああ、今行く」
昭子の声に、薬剤の本を読んでいた圭斗は顔を上げた。
本を脇の本棚に戻し、ゆっくりと立ち上がる。
廊下に出ると、母の昭子が何か言いたげに圭斗に視線を送ってくる。
圭斗は軽く息をつき、母を見た。
その視線は木葉達に見せるものとは違い、どことなく冷ややかだ。
「木葉とは、おれが話す。お袋は来ないでくれ」
「……ええ、わかってるわよ。後で内容だけ教えてもらえればいいわ」
「後で木葉を家まで送っていく。途中で桜庭病院にも寄る予定だ」
「ええ……」
「くれぐれも木葉に余計なことを話さないように。ただでさえ、叔父さんの怪我で精神的にまいってるはずだ」
「わかってるわよ」
母は目を伏せ、弱い声で言う。
そんな母を一瞥し、圭斗はリビングへと向かった。
<***>