蜜色トライアングル【完】
木葉は見てはいけないものを見てしまった気がして、慌てて踵を返した。
あの休憩室で、由弦は『好きな人がいる』と言った。
でも世間的に許されない、とも……。
遥と付き合うのが世間的に許されないとは思えないが、ひょっとしたら遥の方にその理由があるのだろうか?
――――実は婚約者がいる、とか。
であれば由弦の遥に対する態度はカムフラージュだったのだろうか?
キツイ態度に思えたが、実は愛情の裏返しだったとか?
由弦の素直でない性格を考えると、全く考えられないわけでもない。
二人並ぶ姿はお似合いで、まさに『大学生カップル』という感じだ。
「付き合ってるのかな……?」
彼氏もいない自分としては、少しだけ羨ましい。
そして同時に……少し、寂しい。
由弦が彼女にのめりこむ様などあまり想像できないが、由弦ならきっと彼女を大切にするだろう。
由弦はぶっきらぼうで強引な所はあるが、根は真面目で、優しい。
それはずっと傍に居た木葉が誰よりもよく知っている。
木葉は雑貨の袋を抱えて歩き出した。
由弦が一歩を踏み出したように、自分も踏み出さねばならない。
寂しく、つらい一歩であったとしても……。