蜜色トライアングル【完】
14:00。
木葉が家に帰ると、ちょうど冬青が車に乗り込むところだった。
冬青は紺色のスーツを着込み、黒縁のだて眼鏡をかけている。
どうやらどこかの会社に出向くようだ。
兄は仕事の時は必ずだて眼鏡をかける。
会計士になりたての頃、素顔のまま客先の会社に行った時、女性社員に囲まれて大変なことになったらしい。
「これから木下水産の監査に行ってくる。五時には戻る予定だ」
「わかった。いってらっしゃい」
「木葉。……お前、どうかしたのか?」
車に乗りかけた冬青が気遣わしげに木葉を見る。
どうやら悩みが表情に出ていたらしい。
木葉は慌てて笑顔を作った。
「なんでもないよ」
「そうか。……ではまた後でな」
冬青は車に乗り込み、エンジンをかけた。
そのままジエンタは駐車場からゆっくりと出ていく。