蜜色トライアングル【完】
清二は懐かしげに本を手に取り、パラパラとめくった。
木葉はその姿を見ながら、小学校の頃、父に給食袋などを作ってもらっていたことを思い出した。
母を幼い頃に亡くしたため、小学校のそういった細々したものは全て父が用意していた。
必要に迫られて仕方なくかと思っていたが、まさか趣味だったとは……。
長く一緒に住んでいても、親子といえど全てを知っているという訳でもないらしい。
「時間ができたら作務衣でも作ろうかとは思っていた。庭も、いつか改造してデッキとか作りたいものだが……」
木葉は本のタイトルをまじまじと見た。
『英国式ガーデニング』。
剣術道場の横に英国式ガーデン……。
想像がつくような、つかないような……。
まさか父がそんなことを考えていたとは思ってもみなかった。
木葉は驚きつつ、少し笑って言った。
「怪我が治ったら、お父さんのしたいようにしてみたら? でもあまり派手なのは勘弁してね」
「周りの家と比べてあまり浮くのも何だしな……。ロックガーデンやハーブガーデンが良いか?」
「入院してる間にじっくり考えて。案が固まったら教えてね?」
本を手にした父の表情が少し生き生きしてきた気がする。
圭斗はきっと父を気遣い、本を持って来てくれたのだろう。
木葉は圭斗の気遣いに感謝した。