蜜色トライアングル【完】
<side.圭斗>
木葉の姿があっという間に廊下の向うに消えていく。
剣術で足腰を鍛えているせいか、脱兎のごときスピードだ。
「……」
その背を呆然と眺めていた二人は、ややして顔を見合わせた。
菅原が圭斗を見上げ、困惑したように言う。
「あのさ、角倉」
「ん?」
「お前、恋人いるの?」
圭斗は廊下を見ながら、首を振った。
「いや、いない」
「……じゃあ、まずくない? あの子、何か誤解してるよ」
菅原の言葉に、圭斗は片手で目元を覆ってはーっと息をついた。
それを見ていた菅波は、悪戯っぽい視線を圭斗に投げた。
「お前がそんな顔するなんてな。凛ちゃんの話は本当だったんだな」
「……何だ? 凛花の話って」
「お前の想い人のこと。何年も傍にいすぎて手が出せないって」
「……っ……」
「お前の性格なら、用意周到に準備して、あっという間に外堀埋めて逃げられなくするだろ? でも何年も保護者の立場にいたから、それができない」