蜜色トライアングル【完】
菅波の言葉が圭斗の胸に突き刺さる。
圭斗は肩をすくめ、苦笑した。
「凛花のやつ、そんなことお前に言ってたのか……」
「他にもいろいろ聞いたぞ。お前が親父さんの病院継ぐ決心をしたのも、あの子の……」
言いかけた菅波を、圭斗は手を上げて止めた。
軽く腕を組み、木葉が駆け去った廊下を眺める。
――――菅波の言葉は、真実だ。
しかし今の自分の立ち位置は、非常に微妙なものだ。
木葉の従兄であり、保護者であり、兄のような存在。
木葉が自分に全幅の信頼を置いていることは、圭斗自身も分かっている。
それを裏切ってまで、自分の望みを遂げることはできない。
けれど……。
さざ波のようだった想いが、歳を経るごとに高波になっていく。
幾重にも心の中に積み上げた防波堤を乗り越えようとする。
防波堤が決壊したとき、その波は木葉に向かって一直線に進むだろう。
そうなったとき、木葉は逃げるだろうか?
それとも……。
「まぁ、可能性ゼロってわけでもなさそうだし?」
考え込む圭斗に、菅波は楽しげに言う。