のたお印の短編集
鴉はその嘴からポトリと封筒を落とし、また何処かへと飛び去っていく。

鴉の身ながら、彼もまた『関所』の一員。

悪霊、妖怪、魔物、悪魔などの総称『黒の者』を狩る為に存在する、禁忌の術を会得した『外道武士(げどうぶし)』と呼ばれる退魔専門の剣士の集団『関所』に属する者だ。

街灯の下に落ちた封筒を拾い、猛流は中身を読む。

「慈空(じくう)法師からか」

猛流は呟く。

成仏、調伏、退散、除霊などの退魔の業を使う、幼い頃より修行に明け暮れていた密僧。

僧侶でありながら金に汚く、煩悩の塊。

飲酒や肉食も平気で行う破戒僧であり、女好き。

だが強い。

同じ『黒の者』を狩る生業の関係で慈空の事はよく知っているが、あの男が『黒の者』を狩り損ねたという話を、猛流は聞いた事がなかった。

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