のたお印の短編集
黒革の服装に滲む、大量の汗。

元々猛流は長身痩躯、ワイルドな風貌の狼を彷彿とさせる男だが、体力的に追い詰められた今の彼は、手負いの獣を彷彿とさせた。

黒い外套の内に忍ばせる、愛刀に手をかける。

肉体の有無に限らず、悪霊、妖怪、魔物、悪魔などの総称『黒の者』ならば何であろうと斬る事の出来る刀。

この切っ先を自らの心臓に突き立てれば、永久子を逃げ場のないまま道連れにする事ができる。

覚悟は容易く決まった。

『黒の者』…永久子のような強力な悪霊を屠れるのならば、命と引き換えでも惜しくはない。

抜き放った刀の切っ先を己の胸にあてがい。

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