愛をくれた神様
「なんか、インターネットじゃ分からないね小学校の名簿とかもっと手がかりになりそうなのないの?」

彼女が言った。 僕は首をふった。

「そ~ゆ~ものは、みんな前の家に置いてきたんだ。」

申し訳ない気持で僕は言った。

「……ねえ。」

彼女は聞いた。

「その、台風の日の、記憶ある?」

「まぁね…俺は二年生だったし。」

僕は首をかしげ、記憶をたどる。 あの日は。朝から雨が激しく、家の水漏れがひどかった。 珍しく父が家にいて忙しくバケツを色んな所に運んでいたのが印象に残っている。

「台風の日、家から出た人はいた?」

父親は家にずっといた。あの日は、台風で木の枝や看板が飛んできたりして危険かもしれないから家にいなさいと、出してもらえなかった。 父は僕たちのお昼ごはんにと、でかい握り飯と、お手製のチャーシューだか何か肉を煮込んでいた気がする。買いにいけなかったからだ。それを横目で見ながら、テレビゲームをしていた。

ただ。

「ただ、兄貴だけは出かけていったんだよな。」

僕は言った。


父は兄にも外出はするなと命じていたが、兄は父の目を盗み、僕にだけ何か耳打ちをして出て行った。父ちゃんには言うなよ、とか、たぶんそんな事を言ったのだったと思う。

いや何か他に言ったと思うが思い出せない。

そしてそのまま、夕方になり、夜になり、日付をすぎても、兄は帰ってこず、近くの山で土砂崩れがあったと知らせが入ったのだった。

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