愛をくれた神様

「…。」

あの焼き肉の日、裕樹はだまってビールを飲みほした。 そして、あっさりとこう言ったのだ。今までで一番、優しい話し方だった。

「とりあえず、ちゃんと、病院で確認しよう。」

「…。」

私は、うなずいた。

目頭があつくなり、心の中にため込んでいた寂しさが、あふれて手のひらにポタポタと落ちていった。

どうしてだろう。

この人といると、自分がつぶれてしまう。時間の無駄だし自分が傷つくだけだと思うのに、こうやって、手を触れられ、間近で顔を覗きこまれたら、私は何も逆らえなくなり、彼の優しさに涙さえ流してしまうのだった。
「わかった。休みの日に病院に行く。また電話するね。」

約束をした。

 会計をすませ、彼は私の肩に手をおき、お店の前だというのに、強く抱きしめた。


「…悩ませて、ごめんな…。」


それには答えず、されるがままになる。ずっとこうして欲しかった。 仕事も、友達のことも、こどものことも忘れ、彼の胸にいたい。

いつか交わした約束通り、ずっと彼と一緒にいたい。

そんな事を、私は願っているのだった。

「俺、行かないと。」

彼は携帯を出した。
「いくの?」

彼ともっと一緒にいたかった。

「明日は、夜までバイトなんだ。朝も早いからな。」

彼はそういい、駅の入り口へ消えて行ったのであった。
< 32 / 64 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop