愛をくれた神様
彼女も似たような事を言っていた。だけど、僕はいまひとつぴんとこなくて。
でも、母に言われ改めて見てみると、触るとよごれてしまいそうな黄ばみも、ちぎれそうな端も、半分ちぎれてる切手の部分も、まるで一度にぎりしめたかのような折り目も。
見れば見るほど15年もの年月を経た、想いが、このハガキに詰まっているような、そんな気がしてくるのだった。
兄は
どんな気持ちで、これを書いたのだろうか。
たぶん兄なら、台風で山が崩れるかもしれない事くらい予想できただろう。
痛いくらい激しい雨に打たれ、役にたたない傘を投げ捨て、ぬかるみんだ地面をふみしめ、このハガキだけを握りしめて。 たったひとりで出ていった。
出かけずに、台風が止むまで待ってからハガキを出していれば、僕と、大阪に一緒に来て、中学生になり、高校生になり、大学も行って。肩をならべてスーツを来たおじさんになり、僕みたいに彼女ができ、料理がまずい、とそんなささいな、でも幸せな喧嘩ができたかもしれない。
それでも、兄はどうしても、あの日に、これを送りたかったのだ。
たった、一行の、世界にありふれた、でもこの世にひとつしかない、この言葉を。