愛をくれた神様

「裕樹、私ね。」

「…。」

携帯にふれる裕樹の親指がかすかに震えている。動揺する彼のくせだ。この人なりに、考えてくれたのだろうか。お腹の子供の事を。

「私、考えてたの。生理が来なくなって、赤ちゃんができたかもって思い始めてからずっと、裕樹の事考えてた。裕樹が何て言うだろうかってそれが一番不安だった。次に不安になったのは、生まれてくる命の事。この子の人生をどうしようって。 看護士の仕事は4年続けた。お金ならある。今は子育ての支援の制度もいいから、だいぶ無理すればひとりでも産めない事はない。この子が生まれるまでにもう一つ大きな資格をとって給料をあげるか。その間、仕事はどうしよう。実家に親に頭を下げて助けてもらおうかって。生まれて初めて自分の将来を真剣に考えた。」

「…。」

 彼は私が話している間中、ずっと目を伏せたままだった。
話し終え、私は彼を見据えた。
この人は、こんな風に人の話を聞くのだ。5年間もいっしょにいたのに、私はそんな事に驚いているのだった。
彼の事をあまり知らないままここまで来てしまったんだなと実感した。

やがて彼が口を開いた。ため息混じりの声だった。

「おまえは、いつも、俺の事は考えないんだな。」

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