愛をくれた神様

「私、裕樹の事すきだよ。」

私は言った。

彼の指の動きが止まる。きつかった彼の表情がゆるんだ。

「…俺も、好きだよ。」

かちゃり。
彼の返事とともに、無意識に触っていたコーヒーカップが音を立て、時間が止まる。

 私と彼の、最後の、2人だけの時間。

「…裕樹、今日で、お別れしよう。」


私は言った。 え…と裕樹の表情が固まる。好き、と告白した後に、別れようなんて言われるのなんて早々ないだろう。
「私、考えたの。赤ちゃんを産んで、働きながら保育園に入れて小学校に入れて勉強教えて、そうやって育てていく事って、裕樹と恋愛するより、友達と向き合うより、看護士の仕事より、ずっとずっと難しい。そんな難しい事を決意できたんだから、自分は本当はもっと色んな事が出来るんじゃないかって思ったの。 」
彼の表情は変わらない。 それでも私は続けた。

「裕樹に対して怒っている自分も、仕事が辛くて泣く自分も、色んな事が滑稽に思えてきた。私気づいたの。私、たぶん弱かったから、独りになるのが怖かったから、裕樹と一緒にいたかったんだと思う。」


私は立ち上がる。



< 45 / 64 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop