愛をくれた神様
「これ、覚えあるわ。」
と父はさらっと言ったのである。
「えっ…?。」
「内容はカズシがかいたものだから、俺には見覚えないけど、これは覚えある。お前書いてくれてたやんか。」
父が指さしていたのは、うちの差出人の住所だった。
ここは、僕が書いたと言うのである。
「えっ…俺覚えないんだけど。」
記憶に全く無かった。
「覚えてないか?。ここに引っ越しが決まった時、お前とカズシが引っ越しハガキを書きたいと言いだして…。」
父の声が遠くに聞こえる。あの日の、封じ込めてきた「あの台風以前の記憶」が蘇ってきた。
小さな手。生まれて初めて手にした何十枚ものハガキ。 幼い兄の声が聞こえる。
「いいか、相手によって書く内容違うからな。まず、書くのは新しい住所からだ。」
「ばか!ここ差出人の住所だそ。自分の家にハガキを送っても仕方ないだろっ。」
「そう、おおさかし、から書くんだ。ちゃんと全部漢字で書けよ。番地?番地はすうじのままで大丈夫だ。」
………。