愛をくれた神様
「……あ…。」
僕は、口を両手で覆う。ちょっと記憶の引き出しをあければすぐに分かった事だったのに、過去の苦しみから逃れたいがために、言われるまで僕はそれを自分の胸に封じ込めていたのだ。
そうだ。これは確かに自分で書いたものではないか。
大阪への引っ越しは、だいぶ前から決まっていて、その引っ越しハガキを2人で書いたのだ。
だが。ひとつ腑に落ちない事があった。何かを忘れている。
「字が、俺の字っぽくない気がする。」
僕の疑問に、父は簡単にも答えを出した。
「でも、たぶんお前が書いたやつだ。お前、それ左手で書いてただろう。」
そうだ。あの日、僕はなれない料理をして右手をケガしていたのだ。
それで、左手であの字を書いたのだ。
まだ信じられず、僕は引き出しからペンを取り出し、チラシの裏に、自分の住所を書いた。 父が後ろからそれを見守る。
子供な字で違いはあるものの、字の先の癖や、右上がりな点や、全体的なバランスは一緒で、並べて見ると、同じ人間が書いた字体に違いなかった。
たぶん。
この相手にハガキを書くとき、兄は、僕が書いたハガキを使ったに違いない。
すべて謎がとけた気がした。