廻音
「來玖さん、明日も出勤でしょう?一緒に出る?」

「そうだね。その方がゆっくり出来る。」

「來玖さんって仕事も私も、どちらも優先出来るのね。器用なのね。」

「んー?どういう事?」

「仕事を優先させたい人は、『仕事までは誰にも邪魔されないでゆっくりしたい。』って考える人が多いと思うの。恋愛は二の次。
でも來玖さんは違う。
私との時間を大切にするし、でも仕事も蔑ろにしない。
器用だなって思うの。」

うーん、と少し考えて、彼は言う。

「それは違うよ。むしろ俺は不器用だ。

金が無くても愛さえあればなんて嘘だ。愛だけじゃ腹は膨れない。
貧乏は、じきに愛をも奪う。
世の中の八割は金で解決出来る。後の二割は何かって聞かれてもそんなものは判らない。自分で探すしかない。

世の中に足りないのは、愛と金どっちだ?

廻音。俺はね、君に不自由な思いなんてさせたくない。
俺の愛で縛るなら、君が明日、明後日、これからずっと、安心して暮らせる環境を提供したいんだ。

俺は君の愛さえ在れば生きていけるよ。
でも理屈じゃどうにもならない事ってある。
哀しいけどね。

だから俺は不器用なんだ。どちらもこなしていくしか道がない。」


來玖さん、私はその想いさえあれば何も怖くない。
何も要らないんだよ。
なのに人間は哀しいね。

愛だけで生きていける世界なんて、不可能なのかなぁ。
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