廻音
「はーい。」

ドアの向こうから返事は無い。

「…はい。どちら様ですか?」

怪訝そうに繰り返す。

魚眼レンズに姉が近付いた時だった。

「輪廻。」

確かに届いた声に、一瞬空気が止まった気がした。

「………ぇ。」

小さく漏れた姉の声は震えている。

「輪廻。俺だよ。」

「よ、るくん…?」

問い返さずとも判っていた筈だ。
忘れもしない、彼の声。

此方を振り向いた姉の瞳は、「どうして?」と揺れている。
< 188 / 213 >

この作品をシェア

pagetop