廻音
6
「廻音、今日は一日空いてるの?」

脛をサスサスと擦りながら、歯磨きに取りかかる私に訊ねてくる。

「んーん。ひぅすぎひゃら、ゆじゅき…」

全く意味が解らないという顔で、けれど笑いを噛み殺しながら此方を眺めている。
その彼に「待て」と右手で制して、口を濯ぐ。

「はぁー。ごめんごめん。
えっとね、昼過ぎから柚子姫ちゃんと御伽噺行くんだ。
春陽さん…あ、柚子姫ちゃんのお兄さんが入ってる日だからサービスしてくれるかも。」

今日行く予定の「御伽噺」は姉が働く系列支店ではなく、以前の姉のバイト先、春陽さんが社員を務める本社の方だ。

ウキウキと話す私とは対照的に、彼はこれでもかというくらいの皺を眉間に作る。

「誰?その男。」

「え。だから柚子姫ちゃんのお兄…」

「そんな事はどうだっていい。どういう関係だろうと、廻音と接点を持とうとする害悪には違いないね?
ふぅん…そっかぁ。お仕置きしないとな。」

何故がニッコリと微笑む彼にプツリプツリと鳥肌が立つ。

「ちょ…ちょっと待ってよ。柚子姫ちゃんの友達として、良くしてくれてるだけじゃない。他意なんて無いでしょう?そんな事言ってたら私、あなた以外の誰とも関われない!
そういう事、私が望むと思う!?」

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