廻音
仕度を済ませ、鞄の紐に手を延ばす。

「來玖さんはこれからどうするの?」

「廻音の帰りを待つよ。」

夏の湿度には似合わない、爽やかで涼しげな笑顔だ。

「待つって…何処で?」

「何処でって、可笑しな事を訊くね?廻音を待つのに此処以外、何処がある?」

…それはそうなんだけど。
でも…。

「何時に帰るか判らないよ?」

今は正午前で、柚子姫ちゃんと会うのは久しぶりで、
それでいて私達は女であって、だからお喋りが好きなわけで…。

けれど彼は相も変わらず爽やかな笑顔のまま、さらりと言ってのけた。

「構わないよ。」

「…何時に帰るか判らないよ?」

「うん。そんな事の何処に問題があるの。」

…今は正午前で、柚子姫ちゃんと会うのは久しぶりで、えぇっと…だから…

「何時に帰…「廻音!!!」

急に名前を呼ばれ、ビクリとする。

「廻音。何時に帰ろうが君を待つのに何時間だって苦痛は感じない。俺が望むんだ。
君は気にしないでゆっくりしておいで。」
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