蜜色トライアングル ~Edges of precise jade
一章
1.夏の思い出
<side.圭斗>
あれは、14歳の頃だったろうか。
圭斗はその日、木葉を連れて近所の山に散策に来ていた。
夏休みの美術の宿題で『自分の好きな風景の絵をかいてくること』というのがあり、圭斗は近くの山の上からの風景を題材に選んだ。
初めは画材を抱え一人で行こうとしたのだが、同じく夏休みで暇だった木葉が『一緒に行きたい!』というので一緒に連れてきた。
『いい景色だね~!』
木葉はその時、小学校低学年だった。
冬青は剣術合宿に、由弦は幼稚園のサマー合宿に参加しており、遊び相手がいなかった木葉は圭斗にくっついて山に来た。
圭斗は画材を取り出し、ひたすら絵をかいていた。
圭斗はほかの教科はすべてトップクラスだが、美術だけはどうも苦手で、あまり好きではなかった。
『あとは美術の成績さえ良ければ、北都への推薦に乗れるかもしれないのにね』
北都大付属高校は父が卒業した高校で、父はそこから北都大の医学部に進み、医師となった。
母は圭斗に父と同じ医者の道を幼い頃から勧めていた。
しかし圭斗は自分が医師の道に進むかどうか悩んでいた。
父のことは尊敬しているが、医師になりたいと強く思っていたわけでもなく……。
父は何も言わなかったが、母の昭子は熱心に医者の道を勧めた。