蜜色トライアングル ~Edges of precise jade
5.いちばん近いところ
19:00。
海が見える旅館の一室。
七夕祭りを見た後、二人は海辺の旅館に入った。
昔、桐沢家と角倉家で七夕祭りに来た時、よくこの旅館に泊まった。
中は多少リニューアルしているようだが、造りは変わっていない。
「懐かしいねー。……あ、海だ」
木葉は窓の外に広がる海に声を上げた。
晴れ渡った夜空にはぽっかりと月が浮かび、波が月の光できらきらと輝く。
「変わらないな、ここは……」
圭斗も懐かしそうに部屋を見回す。
10畳ほどの和室には木製の和卓と座椅子が置かれ、奥には小さな露天風呂がある。
圭斗も木葉の横に立ち、窓の外を見下ろした。
夜の海はいつもより波音が大きい気がする。
岩場に砕けて散る波を、月明かりが照らし出す。
窓辺に立つ木葉の肩に、圭斗の腕がそっと回る。
「……昔、さ」
「ん?」
「皆でここに泊まりに来たとき。おれたち、部屋は別々だっただろ?」
木葉は圭斗を見上げた。
確かに、桐沢家と角倉家は別々の部屋に泊まった。