蜜色トライアングル ~Edges of precise jade

5.いちばん近いところ




19:00。


海が見える旅館の一室。

七夕祭りを見た後、二人は海辺の旅館に入った。

昔、桐沢家と角倉家で七夕祭りに来た時、よくこの旅館に泊まった。

中は多少リニューアルしているようだが、造りは変わっていない。


「懐かしいねー。……あ、海だ」


木葉は窓の外に広がる海に声を上げた。

晴れ渡った夜空にはぽっかりと月が浮かび、波が月の光できらきらと輝く。


「変わらないな、ここは……」


圭斗も懐かしそうに部屋を見回す。

10畳ほどの和室には木製の和卓と座椅子が置かれ、奥には小さな露天風呂がある。

圭斗も木葉の横に立ち、窓の外を見下ろした。


夜の海はいつもより波音が大きい気がする。

岩場に砕けて散る波を、月明かりが照らし出す。

窓辺に立つ木葉の肩に、圭斗の腕がそっと回る。


「……昔、さ」

「ん?」

「皆でここに泊まりに来たとき。おれたち、部屋は別々だっただろ?」


木葉は圭斗を見上げた。

確かに、桐沢家と角倉家は別々の部屋に泊まった。

< 149 / 161 >

この作品をシェア

pagetop