あの夏の恋
「夏くんを見てると、昔の自分を思い出すの」
愛ちゃんが、いつもよりも細い声でそう言った。
「昔の自分?」
「うん。前ね、私、自分のことが嫌いだったの。嘘ばっかりついて、周りの人に合わせて、だんだん自分が消えていくの。
そんな自分が、大嫌いだった」
素直に、驚いた。
愛ちゃんみたいな明るい人が、自分のことを嫌いだった。
嫌う要素なんて、何一つなさそうなのに。
「でもね、ある日を境に私、変わったの。自分が自分を嫌いだったら、誰も自分を好きになってくれないって。
そんなの、勿体無いでしょ?」
愛ちゃんは落ち葉だらけの土に黒髪を広げたままで、無邪気に笑った。
心の奥が擽られた気がした。